またとても面白い本を読みました。中島京子の「小さいおうち」、昨年度の直木賞受賞作品です。
戦前の古き良き東京を生きた女中さんの手記と言う形をとったフィクションです。今最後のページを読み終わったところですが、感無量。カズオ・イシグロの「Remain of the days」の日本版といったらイメージ付くかしら。
とかく今の地震後を戦後と重ねてしまうのは、本当の戦争を知らない平和ボケ世代のせいかもしれませんが、ここでもやはり重ねてしまって、時折、涙々。
その他、女中のタキさんのゆるがない良識が、一昔前の日本の心って感じで、いつ日本はこんなにゆがんでしまったのだろう、と懐かしくなったり、悲しくなったり。
私 の場合は、こんなに美しい情景ではありませんでしたが、カタールで三年間お世話になった住み込みのスーパーナニー、ネルダを思い出してしまったのも懐かし いやら、つらいやら。カタールでの別れの日や、パリに帰ってからも夢で彼女がいる生活をみて、朝起きたときの、あの喪失感、いやだったなぁ・・・。
そして、「女中がいない家庭に幸せはない」といったようなくだりがありますが、確かに。
カタールでの夫は、日中戦場で戦って夜帰ってくる人、って感じだったので、ネルダがいてくれた生活は、私一人じゃない、タンデム組んで家庭を守っている、といったような連帯感があって、幸せでした。
元気かしら、ネルダ。子猿達はこんなに大きくなってますよ~。
何 よりも切ないのが、十代から八十才くらいなのでしょうか、若き日に山形から上京したときから亡くなるまでの長い時間を、まるでタキさんと一緒に時を過ごし たような気持ちにさせる作家の力・才能はすごい!でも一方で、もう巻き戻しきかないという時の本質をまざまざと見せ付けられもし、なんだか、孤独に歳とっ てしまうことを経験しちゃったよ、どうしよ、ってな気持ちにもなり。
でも、幸い実際には2時間くらいしか時は経っておらず、私もまだまだやるべきこと、できることがある。
「よし、やろう!死ぬとき、悔いないぞう~」とむんずと立ち上がる、立ち上がってみせる、そんな底力を出す気になる本でもあります。
良い本に出会う喜び!あぁ、ありがとう神様!!心底そう思いました。