水村美苗さんという作家の「本格小説」という本です。水村さんは、帰国子女の先輩だと聞いて、どのような小説を書かれるのだろう、と、ふと手に取った本でした。
運命の出会い、というのは大げさですが、読み終えた今、会うべきして出会った本だと思いました。
本の冒頭は、水村さんの、米国での経験、その後ご家族が経験する小さな悲劇などが私小説が如く語られます。この部分には、私の昔が重なるところがあり、何て似ているの!とドギマギしながら読みました。
その後は、幼馴染の「よう子」と太郎の絆、後によう子の夫である雅之が加わった3人の愛を中心に、上流階級の家のサガを同家に仕える女中、フミさんが語ります。
上流階級に属する美人3姉妹が、時代を経て、3バァサンになっていく。読んでいると笑っちゃうほど上から目線の3姉妹は若い時分からバアサンになってもアクの強く、いい意味でも悪い意味でも光っています。
その光が、娘たちの世代、そして孫たちの世代(現代の若者)になるにつれ、どんどん凡庸ぼんやりしたものになっていく。
「時代が悪いのよ」
「軽薄というよりは希薄」
といったセリフたちに、帰省するたびに感じていた胸やけをドンピシャリと言葉にしてもらったようなスッキリ感がある。
そして、これは夫の妹たちに対して、私が思っていたことでもあったりして。
小川けんいち氏に描いていただいた「伯爵夫人」像、いいでしょう? |
夫は旧家の出身でして、義母はかなり上から目線の人です。幸か不幸か、夫は8歳からずっと寄宿舎に入れられていたので、常識的に育っていますが、妹たちは上流意識を持つ親に甘やかされて育った部分があります。その上、フランス人形のような美人姉妹。こうなったら蝶よ花よってなもんで、結婚前は社交界の華だったそうです。
私が出会ったころは、彼女たちは結婚していたもののまだ20代で、自然体でもきれいだし、言動一つ一つが、ハッとするほどに魅力的でした。
それが、歳と共に、職場でフツーの人たちとの小競り合いに参加したり、思い通りにならないことがあったり、というフツーの大人の生活をしているうちに、アレよアレよという間に光が消えてしまったのです。
「もっとエレガンスのある大人になると思っていた」とつぶやいたのは誰だっけ。でも多分、義母を含め、多くの人が心の中でこう思っていることでしょう。
この小説の中でも、期待の孫がどんどん普通のつまらない女になっていくという下りがあって、ふんふん、と読み進みました。
また、この小説が、女中さんの目を通しているところも、ワタシ的には共感するところ多し。
なんかね、やっぱり身勝手というか、自分たちの流儀を「アナタ、知らないでしょう、クスッ」と笑うような残酷さがあるんですよ、上流階級意識のある人たちって。その上、アータ、傲慢なフランス人の中の一東洋人ですからね、アタシときたら。
私も昔の女中さんと同じで、これを受け入れるしかない立場にあるから、流して流して、分をわきまえているというジェスチャーをしながらやってくしかないからね。
その他、よう子とたろちゃんの「ソウルメイト」な言葉のやり取りなどもたまらない。ふと婚活に走る我が日本の女性達よ、こういう狂おしいまでな愛を目指すこと!今更、安定とか、バイオロジカル・クロックが、とかいう不毛な計算などしちゃダメ! とお節介したくなる。
これから「お好きな本は?」と聞かれたら必ずこの本が5本の指に入るだろう、と言うくらい大切な出会いでした。
……ところで、こんな完成度高い「本格」文芸作品の紹介のあとで、おこがましいのですが、ワタクシ目、ニュースダイジェストという、フリーペーパーのウエブサイトにて、「伯爵夫人のマナーブック」というコラムを連載させていただくことになりました。
前述の義母から学んだことなどをフィクションかけて皆さんとシェアしたく、(決して愚痴のはけ口ではありませんよ~)、お時間があるときなどに、お目を通していただけるとありがたいのですが……。
北海道にお住まいのイラストレーター、小川けんいち画伯に、ウィットの利いたイラストを描いていただいています。毎月第2、第4月曜日に更新される予定です。
どうぞよろしくお願いいたしますです。