昔のビクトリア風赤煉瓦の三菱一号館美術館がある一角。 後ろには新品の高層ビルがくっついています。 |
同行してくれたのは、高校からの友人でAKちゃん。
ミレーといえば、フォンテーヌブロー。フォンテーヌブローといえばInsead、我が母校だし、農民の絵には何故か惹かれるし、バルビゾンにも何度か足を運びました。
そしてAKちゃんといえば、パリ大美術史の博士号を持つ才女。
下手な写真で申し訳ございません、ミレー氏よ。 是非、上のミレー展のリンクで正しく撮られた名画「種まく人」を観てください。 |
素晴らしいでしょ?この芸術欲。それはそれは造詣深い話になったかというと……
ミレーの描く、力強い農民の働く姿を観てたら、働いてもいないのにお腹が空いちゃってね。
三菱一号館美術館に併設されているオシャレなブラッセリーに招いてくれようとするAKちゃんを、強引にオヤジくさい牛タン屋に引き込み、AKちゃんの、「何故遅刻しちゃったのか」というのに、「いいよいいよ、東京駅、わかんないもんね、もう年だからなんでも時間がかかるよね(?!)」という、たわいもない話となったのでした。
東京駅、丸の内辺りは、そこで働く機会がなかった人には、たとえ生粋の東京人だろうとも迷路のようです。
特に今の丸の内は、もうディズニーランドのようにピカピカで美しく、オシャレで、日中は人混みも少ないので、映画のセッティングに入ってしまったような不思議な感覚。
そんな中、ふと目に入ったのが東京會舘。
私が、「あぁ」と思ったのと同時に、
AKちゃんも、
「あ、東京會舘があった」
この「あった」は「見つけた! 」という意味の「あった」ではなく、「そうだった、東京會舘があるじゃない」という「あった」だったと思います。
AKちゃんの、プルーストのマドレーヌ的な東京會舘のプチフール。 これは秋バージョンです。 |
「そうだった、日本に来たら、東京會舘に行くんだった」
というのを想い出しての「あぁ」です。
このことを、東京會舘を見かけるまで、まるっきり忘れていたというのでもありません。
パリから戻ってきて、東京駅に行くたびに、皇居を遠くに認めるたびに、「あの近くにあるんだよね、T會舘」って想ってて、いつ行くことになるんだろ、私、って気になっていたのです。
東京會舘は、井上靖の小説「化石」に、T會舘として登場しています。この大作のタイトルが「化石」というのの、理由がここにあるという、大切な場所なのです。
「化石」では、ガンに冒され、もうまもなくこの世と別れるだろう初老の主人公が、この何ヶ月もの間、死と会話し、死との対面の準備をしている、その道筋を記した話なのですが、そんなある日、主人公はT會舘の、化石が埋め込まれた大理石のロビーにて友人が来るのを待っている。すると、太古からの時の壮大なる流れが実感されて、その中にいる自分の死を自然なこととして受け止められる……
という、主人公が、死を受け入れる心境になる、読者も死とはそういうものなのか、と説かれる、そのステージがT會舘なのです。
もしお時間あるようでしたら、以前小説「化石」について書いたことがあるので、コチラを観てくだされば少しわかるかな。
そのT會舘が、映画のセットのような新・丸の内の脇道にふっと現れ、AKちゃんという、お互い高校時代からの30年という時間の重みを現実のものとして実感できずにいて、気持ちだけは永遠のティーンエイジャーなる、ふわふわマインドの同志と一緒に足を踏み入れ、ついに、あの「化石」のロビーを探した!
でも、ワカラナイ。
このロビーの、この壁のことを言っているような気がするけれど、どこかで違うって知っている。
「聞いてみなよ」とAKちゃんは言うけれど、
「え~、変だよ。なんて聞くの? 『つかぬことを伺いますが、私が生まれた頃に書かれた、ま、それって約50年も前のことなんですけどね、井上靖の「化石」という小説をご存じですか? その一場面に、こちらのロビーが出てくるのですが』……なんて聞いても、あんな若い人たち、『は?』ってなもんでしょ。」
なんていうやりとりをしていたら、とても真摯な印象の職員の方を見つけましてね、吸い寄せられるように、「あの~、つかぬことを……」というセリフがスラスラ出てきて、尋ねたところ、とても温かい対応を受け、実は・・・・・と教えていただいた話は……。
長くなるので、以下、第二部に回してもいいのですが、めんどくさいので一気に書きます。お読みになる方は、ここで一度閉じてくださってもかまいません。
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現在の東京會舘は、今から約40年前に谷口吉郎氏により建築されたので、実は、「化石」に出てくるロビーは、もう取り壊されたそうです。
ところで、谷口氏は、その頃としては先鋭なるアイデアを持っておられ、アーティストとのコラボを実現されたとのこと。ロビーのモザイクなど、猪熊弦一郎氏の作品が多く置かれています。マティスを彷彿させる、ポップなアートは40年経っても魅力があせないものですね。
猪熊氏のモザイク。©AKちゃん |
ジャジャーン! という割には下手な写真でスミマセン。 |
思わず両手をあててしまう。
目を瞑ると、ひんやりとした感触の奥に、何かが見える。
でも何にも見えない。
宇宙みたいな際限ないものを漠然と感じるのです。
すごいね、化石って。
そしてこの大理石で作られた旧館は、関東大震災にもびくともしなかったそう。
小説によると、当時は、こうして大理石を使った建物がいくつもあったそうです。
現代は、豊かになったようでいて、昔はできたことができなくなっている。
古いものを壊さずに、新しい技術を積み重ねていければいいのにね。
というのも、この建物も、丸の内ディズニーランド化の波の中、来年1月に取り壊しをはじめ、2018年頃に新しくなってお目見えとなるそう。新しい建物はどんな感じなのでしょう。
そのときにこの大理石を移築するのでしょうか。
もし、しないのなら、是非、一般の人々に買い取るチャンスを与えてほしいです。
ちなみに、現在のロビーも大理石で作られています。それも職人さんが手によって打ち均したという、現代ではあり得ない手の込んだものです。これはどうするんだろう。そして猪熊氏のモザイクは?
最後には現実的な気持ちにもなり。
でもやっぱり、この日は時空を超えた空間にトリップしたような、夢のような時間だったな。
でもね、家に帰ったら、掃除・洗濯・炊事・育児が待ち受けていて、ま、ショウガナイ。
長文にお付き合い頂き感謝です。
また行きますね。