2018年4月10日火曜日

伯爵夫人のマナーブック「装いの掟」

イラストは、小川けんいち画伯
Instagram@ kenichi_ogawa

 前回に引き続き、以前別の媒体で掲載された「伯爵夫人のマナーブック」というコミカルな指南書を、隔週にて、エトランゼ♪ブログで再放送しております。
フランスのコンテスと日本人嫁のやり取りを通して上流階級のエチケットについてご指導してもらおう、という趣旨の文章です。100%フィクションです・
お時間あるときにでも!

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前回のソワレについての手ほどきでも見られるように、装いに関してカジュアル化が進んでいるフランスです。
 では現代において装いのプロトコールはないのか? とコンテスに聞いたところ、
 「いいえ、あります」 ときっぱり!
 コンテスは年甲斐もなく、ミニスカートははくし、遊び心満載なファッションも好きだし、年相応、もしくはTPOという語彙は「コンテスの辞書にはな~い! 」のだろう、と思っていたから、この返答には内心びっくり。
 「では、どのような決まりでしょう?」
と問うと、一言、
 「貧乏くさくない格好」
という、実に高飛車かつ明快な回答を頂きました。
 そう言われればコンテスは、「遊び心」を纏わないときは、シャネルスーツや色鮮やかな服を好み、カバンはプラダやエルメスなど高級品ということが一目瞭然の物を持ちます。そしてその上、「肩、凝らないかしら」と思うほどたくさんのジュエリーを細い首に巻き付け、指には華奢な手に不釣り合いなほど大きな石の指輪を何個も付けます。地味好きな私は、正直「やり過ぎ」と思っていました。

見掛けで判断するフランス人
 そんな疑問を投げかけると、義母は急にコンテス顔になり、
「アナタね、『人は見掛けによる』といってね、外見が大切なの。社交の場では、見下されることがないよう、誰が見ても高級品と分かるものを着るべきです」
と言うのです。
「で、でも、お義母さま、日本には清貧が美徳とされていましてね……」
などと口答えすると、
「『清貧』? フランスにもあったわねぇ、そういう言葉。まっ、心の中に秘めていればよござます」
と先人の知恵をあっさり切り捨てます。
「で、でもですね、私の育った東京には『江戸っ子』文化というのがあって、これ見よがしなのは『野暮』って言ってですね、どういうことかというと……」
と食い下がろうものなら、
「アナタはいつも何が言いたいのか分かりません! さぁ、ワードローブ、そして持っている限りのジュエリーをお見せなさい!」
……ってなもんで、私の趣向などお構いなしです。

大和男子たちよ、目標とすべきはチャールズ皇太子ですと
 愚痴はこのくらいにして、まず「装いの掟、服装編」、行きましょうか。
 コンテスの毒舌名言を引き続きシェアさせて頂きますと、

 一つ、「ドレスアップ、アップし過ぎることはない」.
 「アナタねぇ、『着崩す』というのはワタクシくらい歳と経験を重ね、Savoir Vivre(サヴォア・ヴィーヴル、マナーや生活美の知識)を理解する粋人だけの特権ですよ。アナタのような(と見下した視線を向け)のは、ちょっと堅苦しい、やり過ぎくらいの方が無難です」 というのです。
 例えば、昨今のレセプション・パーティなどでは、フラットシューズやサンダル履きの人、またジャケットを着用しない人も見掛けます。
 でもコンテスは、「ヒールを履きなさい、スーツを着なさい」 と言います。気を抜いてはダメ、ということのようです。

 また、男性に関しては、スーツ姿の日本男子を見掛けるたびに
 「アナタの国には仕立て屋がいないの? 」
と辛辣に批判します。
 曰く、「目標は高く、チャールズ皇太子を目指すべき」
とのことです。
「男性たるもの、チャールズ皇太子のように身体にフィットしたスーツ、品のあるネクタイに投資すべき。男性は、装いで目を引くべきではない、自分が醸し出すオーラ、存在感で注目されるべき。ですから、洋服が目立たず、自分が引き立つようなしっかりした仕立て、そしてシックな色を選ぶべきです。その点、チャールズは(と殿下を呼び捨てするコンテス)完璧ざます。いつもジャケットがしんなりとフィットしていて、ネクタイなんて、どんなのをしているか、思い出せないでしょう? でも改めて見てみると、実に粋な色、柄なんですよ。日本男子の『あ、アルマーニが歩いている』『エルメスのネクタイが踊っている』というは失格も失格、大失格です!」
というのがラ・コンテスのご意見です。

 あと、そうそう! 忘れてはならないのが靴。コンテス曰く、日本の女性は歩き方で分かるとのことです。上手に歩けないのなら、無理してピン・ヒールやファッション最先端に走らなくてよいから、「自然に歩ける靴、そして足元を目立たせない靴を選びなさい」 とのこと。「注目されるべきはアナタの顔でしょ? 靴が目立つのはそれこそ野暮」、だそうです。

 また男性は逆に、歩きやすさ重視の靴を選ぶ傾向があるけれど、
「目標はチャールズ皇太子であることを忘れてはいけません。少なくとも一足は質の良い革靴に投資すること。そして出掛ける前に磨くこと!」ですって。
読んでいるだけで靴擦れしそう?
まだまだ続きますよ~。

ジュエリーの掟
 お次はジュエリー。
 平民も平民、ド平民出身のワタシ、当然大したジュエリーは持っていません。
 その中で、唯一の宝物は日本が誇る養殖真珠のネックレスでした。
 それを見てコンテスは、
 「あら、よく光るわね。……でも粒が小さいこと! 」
とのたまいます。
 コンテスいわく、宝石類はある程度のクオリティーをクリアしていれば、あとはサイズがモノを言う、というのです。コンテスの南洋真珠、確かに粒は大きい。でも、もしかしたら値段は私のとそう変わらないのかもしれません。


 「いい? どんなに高品質なダイヤでも、くずダイヤは『くず』なのよ」
乱暴な発言を続けるコンテス。
 ふとご本人の指を見ると、
すさまじい大きさのダイヤの指輪を着けています。目が離せないでいる私の様子に、
「これ、すごいでしょう? 何カラットあると思う?」
といたずらっぽく微笑みます。
「見当もつきません」と降参すると
「アッハッハー! 」
と水戸黄門のように笑うコンテス。
「これ、ジルコニア(人工ダイヤ)よ! 」だって!
唖然とする私に、
「こんなの本物のはずないの、識者には一目瞭然よ。遊び心ってやつね。でも華やかでいいでしょう? この小指のはもちろん、本物のサファイアよ。このルビーもね。この本物の方はカジュアルに重ねて小指に着ける、これが粋なのよ」
とコンテスのか細い小指が隠れそうな大粒のサファイアとルビーを見せます。
そ、そんな、重ねてつけて傷はつかないのだろうか、と心配する平民の私。
 「いいこと、どんなに高級な宝石でも、人に見てもらわなければ意味なーし! 」
 ハハーッ、コンテス様! とひれ伏したくなる私なのです。

見せ所は見せる!
 そしてコンテスは続けます。
 「アナタはねぇ、もっとデコルテの服を着て、鎖骨付近にぶら下がるペンダントをすべき」
 え~ぇ! 私、貧相な胸だし、そんなの、首元がスースーして風邪引きそう、と拒否すると、
 「アナタね、他に何をアピールしたいの? (と頭のてっぺんから足元までじろり)足がきれいな人は足を見せる(この日もコンテスはミニスカです)、首がきれいな人は髪をアップにまとめてうなじを見せる、グラマーな人はボディーコンシャスな服を着る。そういうものです」
 コンテスいわく、アジアの女性は肌がきれいなのだからそれを見せるべきだ、と言うのです。
 確かにねぇ、地中海焼けしてソバカスが目立つフランス人よりはシミも少ないかな。

いざ実践!
 さて、コンテスに言われた通り実践してみると、悔しいかな、どんな場面でも安心して振る舞える自分に気付きます。早速コンテスに「行ってらっしゃい~」と背中を押されながら、例のレセプション・パーティに行ってきたのです。初めて会う方と「ボンソワール、マダム」とあいさつを交わすと……そう言えば、 「初対面のときの挨拶は、『Enchante アンシャンテ、はじめまして』という」、と語学本にありますが、コンテスによると、それは「庶民の習慣です。アンシャンテなんて田舎くさいことは言わなくてよろしい。 Bonsoir Madame, Monsieurだけでよし! 」とのことです。
 ……さて、元に戻りますね。
 レセプション・パーティ、他の出席者とご挨拶を交わしたら、毎度がごとく、皆さん、私の頭から爪先まで鷲のような目でCTスキャンをかけてきます。これが結構露骨なのです。
 でも、もう私は揺るがない。
 一張羅のスーツに、これしか持っていないハイヒール、そして鎖骨にぶら下がるは一粒だけど大粒真珠。指には「給料3カ月分」のエンゲージリングをつけ、腕には若いころの病で買ったブランド・バックで鎧を固めていますもの。ええぃ、どうだ!
 お、どうやら無事マダム達のご承認を受けたようです。皆さん私を見る目線が柔らかくなりましたもの。
 そして少し話をしたところで、
 「あぁ、アナタ、マダム・ラ・コンテスの義理の娘さんなのね、やっぱり!」
 やっぱり?

 これはどう受け止めたらよいのでしょうか?! フクザツです。

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