2018年3月27日火曜日

伯爵夫人のマナーブック、ソワレの掟

イラストは、小川けんいち画伯
Instagram@ kenichi_ogawa

唐突に、伯爵夫人??と驚かせてしまいましたでしょうか。
時折、昔書いた文章を再掲載することにしました。
フランス上流階級のサヴォア・フェールについて書いたものです。
いつもの「エトランゼ」と異なった文調ですが、お時間あるときにでもご笑読くださいませ。

1 ソワレの掟

 フランスに来て10年以上経ちますが、いまだに苦手なのはソワレというやつです。 最近では、日本の雑誌などにあるローブ・デコルテを着るようなクラシックなソワレは少なく、女性は膝丈のワンピースとかシャネルスーツのような少しデコラティブなツーピース、男性はビジネススーツにて歓談を楽しむカクテル・パーティーが主流です。義母(以下コンテス)曰く、最早ロングドレスを着て、ワルツを踊るソワレは「デモデ(demode、流行遅れ)」とか。

 このようにカジュアル化している昨今のソワレですが、それでもやはり気が重い。
 なぜか。

ソワレは宵っ張り
 まず、パリのソワレは始まりが夜9時ごろなのでお開きになるのも遅い。大抵、真夜中過ぎまで続きます。
 昔のように仕事はせず、資産に頼って暮らしていたころはこれでよかったのでしょうが、今や旧貴族たちも普通のサラリーマンがほとんど。翌日を思うとつらい!
 せめて金曜の夜ならよいのですが、このソサエティーの多くは、金曜の夜から田舎のウィークエンド用の邸宅に向かうので、ソワレは得てして週の中盤に開かれるのです。


社交下手なフランス人
 夜が遅いのは辛いけど、これくらいはしょうがない。
 ソワレで何が最も辛いかといえば、社交です!
 フランスは社交の国と思われている節がありますが、実はフランス人って社交下手! 仕事やPTAの集まりなどで、普段顔を合わせることのない人も集うような場、ネットワークを広げるような場でも、フランス人は知っている者同士で固まっていることが多いのです。そして旧貴族層ではこの傾向がさらに強い。見知らぬ人に対して警戒心が強いのか、人見知りするのか、それともただ単に好奇心が弱いのか……。
 パーティというのは新しき出会いを楽しむ場。アメリカ人みたいに気軽に話し掛け、気の利いたジョークを飛ばして、「お会いできて良かったわ、またね」とさらっと去る、というのがスマートだと思うのですが、旧貴族層のソワレはこういったパーティとは勝手が違うよう。ソワレは旧知の仲間が集まる場であり、私のような一見さんプラス外国人には興味はなく……いや、実は興味津々なのかもしれませんが、そういう素振りは見せない、ひどい時は、見下したようにじろじろ見られることすらあります。

面倒見の悪いフランス人
 
 そして、こういうソワレの主催者であるホスト・ホステスも面倒見が悪いことが多いと来ます。
 大概、ソワレの会場宅に到着し、玄関で手土産などを渡しつつ、
Bonsoir Madame(今晩は)」「Ca va? (元気? )」
とか、
「久しぶりね」「Entrez(どうぞ中へ)」
とか、短いあいさつを交わすでしょ。すると、その後はもうお構いなしなのです。
 これがアメリカ人だと、「ほら、あなたにこの方を紹介したかったのよ! 」と一見さんを人の輪に押し込んでくれたりするけれど、フランス式ソワレではそういうことない。客は自らサロンに進み、先客の中に知った顔を見つけ、その輪に加わっていく・・・・・・。たくさん人を知っている人は社交上手として崇められ(=コンテス)、そうでない新参者で言葉もままならない私は、一人所在なく佇むことになるという……。

それでも社交を試みる
 そして、こんな風に壁の花となっているところをコンテスに見つかろうものなら! こういうソーシャル・クラスは家族ぐるみの付き合いが多く、ソワレでコンテスに遭遇しないことの方が少ないのです。

コンテス
「アナタ、何しているの? (と言いながら、目は私の装いチェックをしています。カジュアルすぎる格好だったり、ジュエリーを忘れた日にゃその場で容赦なく、そして厳しく批判されます)ソワレは社交するところよ」
で、でも」
コンテス
「ぼーっと一人で突っ立っていたらみっともないでしょ」
「はぁ」
コンテス
「あぁもう! いらっしゃい!」
と、イライラを前面に出して、私の手を引っ張り、独り幸せそうにシャンパンをすすっているおじいさまのところなどに私を差し出します。
コンテス
「アンリ、あなた日本に行ったことあるって言ってたわね」
アンリさん
「おお、君かい、久しぶりだね。おお、この愛らしいマダムはどなたかね? 君の義理のお嬢さん? なるほど。日本からからきたのだね。ウイー、わしゃ天皇ヒロヒトに会ったことがあるぞ」
とか言いながら、ベーズマン(baise-main)という、よく映画などで騎士が女王様の手の甲にキスする、アレをしてくださいます。

 このベーズマン、相手が頭を下げると私などは反射的にお辞儀を返したくなるのですが、そのせいで何度コンテスに足を蹴られたことか。コンテスいわく、そんなにぺこぺこせず、女性は堂々と自然体でいればいいとのこと。そうは言っても、もう頭下げるのは習慣ですからねぇ。
 また、このように初めて会う方だと、相手の爵位が分からず困りそうでしょ? 皆さん顔に、「伯爵」とか「男爵」とか書いてあるわけではありませんからね。でもそんなに心配しなくても良いのです。対面しての呼びかけ方は、Duc(公爵)は「Monsieur le Duc/Madame la Duchesse」、それ以下はComte(伯爵)でもBaron(男爵)でもMonsieur(ムッシュー)、その夫人らはMadame(マダム)でよし。広いフランス、星の数ほどいる貴族の中で、Duc/Duchesse(公爵、公爵夫人)の爵位を持つ方は実に限られているので、多くの場合は、ムッシュ、マダムでOKなのです。
 ほかは、と。そうですね、海外に住む方でしたら、外交官への呼び方は知っていた方がいいかな? 「Monsieur/Madame lAmbassadeur」となります。
 文書においては別の決まりがありますが、それはまた追々。聖職者に対してはまた別の決まりがありますが、まぁ、これもここではいいでしょう。

ソワレでの孤独対策
 さて、もしソワレで独りぼっちになってしまったら、どうするか。私が今までにやったことがあるのは、

     あまりにも手持ち無沙汰で身の置き場に困ったときは、そっと外に出て散歩をし、20分に一回ほど、会場に顔を出す。結構誰も気付かないものです。外に出てみると、何人かの招待客が同様に外に出て、携帯いじっていたり、タバコ吸っていたりするので、社交が苦手なのは私だけではないんだな、とほっとしましたっけ。
……でもちょっと内向的すぎるかしらね、こんなアドバイス。

② そうでなければ、自分と同様に独りぼっちの人を見つけ話し掛ける。私のようにフランス語が苦手な方でしたら、狙い目はアラフォー、アラフィフ世代です。この世代でしたらフランス語・英語ちゃんぽんの会話でも何とかついてきてくれます。

③ 食い気に走る。……なんて、これはもちろんX! オードブルなどは薦められたら1つだけ取る。その際はカクテル・ナプキンを添えて、ね。
  また、飲み物、特にアルコール類は、女性自ら注がない、求めないという前時代のルールがいまだに生きいます。何か飲みたいときは、パートナーにお願いして持ってきてもらうか、ボーイさんに目配せを送り、シャンパンを持ってこさせます!
ええい、お代わりじゃ!

立つ鳥跡を濁さず
 さて、先刻のアンリさんと昭和天皇について話しながら、心の中では「あぁ、帰りたい」とひたすら願う私なのですが、ぐっと我慢です。パーティーブレーカーとなることは無礼とされていますからね。帰るときはそーっと、そーっと。……そうですね、お客さんが3人ほど帰ったころが行動開始の目安でしょうか。この帰り支度は、ムササビのようにさささっと動くことがキーです。
 まず主催者が1人でいる瞬間を狙い、「お招きありがとうございます」とお礼を伝え、知人らには静かに「おやすみ」を告げ、そそくさと立ち去る。素早くしないと、もうあちらこちらで取り留めのない話に巻き込まれ、その上コンテスにつかまったりしたら大変ですからね。

そして〆は
 まだ終わりではないですよ。翌日には主催者への御礼状をお忘れなく。メールじゃだめ? もし親しい仲で、メールにて招待されたのならいいかもしれませんが、目上の方や、書面にて招待状をいただいたのならこちらも文書で返事しましょう。書き方? それはまた今度にしましょうか。

 初回から肩凝りましたね。お疲れ様でした!